「中部圏デジタルツイン推進イニシアティブ」発足記念セミナー 開催レポート

イノベーターズガレージでの講演の様子。演題に講師のダッソー・システムズ株式会社 田野倉氏が立ち、それに向き合って座る参加者たちが熱心に聞いている様子

2026年7月14日(火)、「中部圏デジタルツイン推進イニシアティブ」が正式に発足し、これを記念したセミナーを開催いたしました。

当日は、中部圏を中心に産官学の各界からデジタルツインに関心を持つ多くの皆様にご参加いただき、デジタルツインの社会実装への期待の高さが伺えるイベントとなりました。大盛況のうちに終了した当日の様子をレポートします。


【開催概要】

日時:
2026年7月14日(火) 14:00〜16:00
開催形式:
ナゴヤ イノベーターズ ガレージ(名古屋市中区栄3-18-1 ナディアパーク4F)+オンライン配信のハイブリッド方式
参加者数:
126名(会場63名、オンライン視聴63名)

▼ 目次

  1. 1.
    【主催挨拶・来賓祝辞】中部圏デジタルツインの未来へ
  2. 2.
    【講演1】ダッソー・システムズ株式会社「バーチャルツインで拓く、製造業のものづくり変革」
  3. 3.
    【講演2】キャップジェミニ株式会社「デジタルツインの”本質” ― 必要な考え方と、取り組みの価値 ―」
  4. 4.
    【閉会】産学官の連携で踏み出した、未来への確かな一歩

【主催挨拶・来賓祝辞】中部圏デジタルツインの未来へ

代表幹事、安田孝美(金城学院大学 特命副学長 教授)によるご挨拶と本イニシアティブの取り組みの説明からスタート。

現在、日本のデジタルツイン活用率は1割以下にとどまり、諸外国に比べて遅れが目立つのが現状です。その背景には企業におけるノウハウ不足や専門人材の確保という高いハードルがあるとした上で、「こうした課題に対し、地域の産学官が連携する中立的なきっかけづくりの場として設立されたのが本イニシアティブ」であると説明。

今後は「情報発信」「事例紹介」「人材育成」の3つの活動を軸に、中部圏全体にデジタルツインの裾野を広げていくという本イニシアティブの目指す姿が共有されました。

演台で開会の挨拶をする代表幹事 安田孝美(金城学院大学 特命副学長 教授)

愛知県知事 大村秀章氏からも期待のメッセージ

来賓の愛知県知事 大村秀章氏からもご挨拶をいただきました。
愛知県では、県内企業に向けDXへの理解と実践を促す「あいち産業DX推進コンソーシアム」を軸に支援施策を展開しています。大村知事からは、県の取り組みと本イニシアティブが密に連携し、情報交換を重ねることで「県内の産業DXをさらに高度化させていきたい」との心強いエールをいただきました。

演台から参加者に語りかける来賓の愛知県知事 大村秀章氏

顧問の松尾東海国立大学機構 機構長が語る、産学官連携の重要性

続いて、本イニシアティブ顧問の松尾東海国立大学機構 機構長が登壇。
東海地方はこれまで日本のものづくりを牽引してきたものの、「世界的なデジタルの潮流に後れを取れば、かつての米国中西部のようなラストベルト(寂れた工業地帯)になりかねない」と指摘。本イニシアティブの発足は、その危機感の表れではないかと語られました。

次世代に備えるため、大学や研究機関によるAIサイエンス、企業のAIインダストリー、そして国や自治体が進めるAIソサエティを相互につなぐことが重要となる中、デジタルツインがその実現を支える基盤であることを強調し、産学官の連携による社会実装の必要性を呼びかけられました。

演台から参加者に語りかける顧問の松尾東海国立大学機構 機構長

【講演1】ダッソー・システムズ株式会社「バーチャルツインで拓く、製造業のものづくり変革」

登壇者:ダッソー・システムズ株式会社 マーケティング本部 ディレクター/ 田野倉 靖 氏

ダッソー・システムズ株式会社は、3D CADやPLMをはじめとする高度なソフトウェアを展開するグローバル企業です。本講演では、デジタルツイン(同社ではバーチャルツインと呼称)の概念や最新のAI技術、製造業の持続可能な成長に向けた実践法が語られました。

田野倉氏は、デジタルツインの本質的な目的として「儲かること」「幸せになること」「生き残ること」の3点を提示。現場の手戻りを防ぎ最速で開発・試作を行うため、バーチャル空間を活用した統合プラットフォームやAIとの融合が決定的な手段になるとお話しされました。

演台から参加者に語りかけるダッソー・システムズ株式会社 田野倉氏

単一プラットフォームによるデータ統合と「産業用世界モデル」

従来、製造業では工程ごとにシステムが縦割りで運用されてきました。これに対し、同社が提供しているのが「3DEXPERIENCEプラットフォーム」です。要件、機能、モデル、製造工程、リソースに至る一連のデータを単一の基盤上で統合し、スムーズなデータ連携を実現します。

これらデータを一連の流れとして繋ぐ構造は「デジタルスレッド」と呼ばれます。構築は容易ではありませんが、可能な領域から部分的につないでいく取り組みはすでに進んでおり、特に欧米や中国の先行企業ではその動きが見られます。

デジタルスレッドの構築によって社内データが整理されると、AI活用の可能性が一気に広がります。

同社では、業務を補助するAIエージェントの開発を進めるほか、一般AIのトレンドである「世界モデル」を産業に応用した独自の「産業用世界モデル」の構築を推進。シミュレーションとAIを融合させ、現実空間の振る舞いをバーチャル上で事前に高度検証できる環境を目指しています。

田野倉氏の講演を聞いている参加者の後ろ姿

多様な実践事例と、スモールスタートの推奨

講演後半には、世界中で展開される同社の事例が紹介されました。

バーチャルライン・コミッショニングによる立ち上げ最適化
実機を試運転(コミッショニング)前に、自動化ラインのシステムを仮想空間で検証。

AIを活用したロボティクス
固定ロボットと移動ロボットの相互作用、共有エリア、衝突リスク、タスクの同期を現実に近い運用条件でシミュレーション。

MES/MOM※を用いた生産ライン管理
IT/OT融合ラインのパフォーマンスを監視し、現場のタスクを管理。エラー防止や予実管理の徹底により、製造ラインの非効率やロスを削減して利益率を向上。
※MES:Manufacturing Execution System。製造実行システム
 MOM:Manufacturing Operations Management。製造オペレーション管理

都市・広域空間デジタルツインによるオペレーションと合意形成の最適化
人流・気象などの現実データや3D点群データをバーチャル空間に統合し、社会インフラ運用や文化・行政サービスの付加価値を向上。

田野倉氏は「最初からすべてを目指すのではなく、まずは重要な工程などからトライしてみることが、現場の意識と効果を変える確かな第一歩になる」とスモールスタートを推奨しました。

NVIDIAとの戦略連携と、強固なセキュリティ基盤

ダッソー社の「産業用世界モデル」の構想を加速させる鍵となるのが、NVIDIA社との戦略パートナーシップです。NVIDIA社の高速コンピューティング技術との融合によって、今後はより複雑なシミュレーションの処理速度が飛躍的に向上していくことが期待されています。

さらに、企業の知的財産やデータ主権の保護に向け、強固なセキュリティ基盤の確立が不可欠である点も強調されました。
最先端テクノロジーと高度なAIの融合により、材料研究や設計支援、製造、教育といった幅広い領域で、人とバーチャルツインが調和する持続可能な世界の実現を目指す意欲的な講演となりました。

田野倉氏の講演中の会場全体の様子

講演後には質疑応答の時間も設けられ、参加者からは「デジタルツイン導入によるコスト削減の事例を知りたい」との質問が。
田野倉氏は「手戻りを減らすことで、これまで2週間かかっていた工程を2日に短縮できたといった、コストカット事例は非常に多い」と回答。売り上げを伸ばす以上に、無駄を削減(最適化)する点にこそデジタルツインの大きな価値があることが示され、参加者として具体的なイメージを掴む好機となりました。

【講演2】キャップジェミニ株式会社「デジタルツインの”本質” ― 必要な考え方と、取り組みの価値 ―」

登壇者:キャップジェミニ株式会社  執行役員 エンジニアリングR&D事業部 統括責任者/熊谷 太一郎氏

キャップジェミニ株式会社はものづくり企業の支援実績を数多く持つグローバル総合コンサルティングファームです。コンセプト企画からシステム構築、現場導入、アフターケアまでエンドtoエンドでデジタルツインの活用を支援してきた実績を持ちます。
本講演では「デジタルツインの本質」をテーマに、激変する製造業の環境下において製造業が勝ち残るための戦略と実践法が語られました。

演台から参加者に語りかけるキャップジェミニ株式会社 熊谷氏

激変する市場環境と、問われる製造業の対応力

現在、製造業はAI活用やDXからAXへのシフト、人手不足といった内部課題に加え、欧州規制や地政学リスク、新興メーカーの台頭など外部的な環境変化に直面しています。

新興勢力は開発サイクルが圧倒的に速く、製品をすばやく市場に投下し、運用データから継続改善を図るソフトウェア中心の開発思考を持ちます。一方、完璧な合意形成と100点満点の品質を求めて意思決定が遅れがちな従来の開発アプローチでは、市場機会の逸失を招きかねません

世界で戦える製造業であり続けるには、従来の製造業が培ってきた品質や安心感を維持しつつ、新興勢力とのスピード差を埋めることが求められています。

単なる「可視化」ではない。デジタルツインの真の価値は、意思決定の高速化

そこで重要になるのがデジタルツインです。
デジタルツインの目的は単なる「3Dモデルによる可視化」や「現場の作業効率化」ではないと熊谷氏は語ります。
その本質的価値は、データに基づく戦略立案や、迅速・的確な意思決定を支援し、収益性と信頼性の最大化に貢献することにあります。最適な次の一手を素早く判断する意思決定基盤こそが、事業継続性の確保につながるのです。

グローバル先端事例

講演では、同社が支援するデジタルツインのグローバル事例を紹介いただきました。

空港の完全デジタルツイン化
運用や人流を可視化し、AIによる最適な指示でボトルネックを解消。大規模なハード投資なしで顧客満足度を劇的に向上。

MOM連携による生産ライン構築の加速
仮想空間上でロボット軌道などを事前学習。熟練者のノウハウ依存から脱却し、立ち上げ時間の短縮と現場の安全確保を両立。

データ連携によるアフターサービスの最適化
大型建機の稼働データを分析し、非稼働ロスを防ぐ予兆保全サービスとしてサブスクリプション化。

AI融合による工場運営の自動化
工場の意思決定プロセスをAIで再現し、運用管理者の作業時間を50%削減。

フィジカルAI(ヒューマノイド)の活用
原子力施設などの高リスク環境で、遠隔・自律型ロボットによる安全で高精度な作業を実現。

演台でしゃべる熊谷氏と、それに向き合って座る参加者たちが熱心に聞いている様子

マインドの重要性と変革と実践へのロードマップ

デジタルツインの導入を進めるためには、技術者だけでなく経営層やコーポレート部門を含め、変化を恐れず全社で試行する組織マインドセットへ切り替えることが重要だと熊谷氏は語ります。

そのうえで、経営・現場が一体となり、ノーススターを掲げることが不可欠です。大規模な刷新を目指すのではなく、PoCなど小さな成功体験から始め、継続的にアップデートを回すスモールスタートのアプローチこそが重要であると呼びかけました。

熊谷氏の講演を聞いている参加者の後ろ姿

【閉会】産学官の連携で踏み出した、未来への確かな一歩

プログラムの最後には、本イニシアティブ顧問の柳田康幸氏(日本バーチャルリアリティ学会 会長/名城大学 情報工学部 教授)が登壇。「バーチャルリアリティの分野としても、かねてより産業界との連携強化の必要性を感じていた」と語られ、産学官の架け橋となる本イニシアティブの発足へ、大きな期待の言葉をいただきました。

演台で閉会の挨拶を述べる顧問の柳田康幸氏(日本バーチャルリアリティ学会 会長/名城大学 情報工学部 教授)

当日は、オブザーバーである中部経済産業局長の寺村英信氏、東海総合通信局長の増山寛氏をはじめとする多くの関係者にもご列席いただきました。

事務局による司会の様子
受付の様子。二人の参加者が名刺を提出し、事務局スタッフがそれを受け取り、フライヤーを渡している

今回の発足は大きな注目を集め、翌日の中日新聞など複数のメディアで紹介していただきました。

また、参加者アンケートでは、各講演への高い評価とともに、イニシアティブ活動に対する期待の声を多数いただきました。自機関での活用について「すでに活用している」という回答はまだ少数にとどまるものの、「検討中・今後検討したい」が全体の約3分の2を占めており、デジタルツイン導入に向けた前向きな姿勢が伝わってきます。

そのほか、今後期待するテーマとしては、

「製造・建築現場等における、3D点群・デジタルツイン・フィジカルAIの具体的な活用事例が知りたい」

「インフラ点検へのデジタルツインの活用に関する情報提供や、協創の場を設けてほしい」

「製造業におけるデジタル・AIの海外依存度を下げる取り組みが知りたい」

といった声が寄せられました。特に国内外での事例を知りたいといった声が多く、現場で使える実践的なノウハウへの関心の高さがうかがえます。

中部圏デジタルツイン推進イニシアティブでは、こうした皆様からのご期待を今後の活動に反映しながら、本イベントを皮切りに中部圏の産業の持続的な発展へ向けた活動を本格的にスタートしてまいります。

なお、本イニシアティブは入会制度のある会員組織ではありません。どなたでもフラットにご参加いただける、オープンな情報共有ネットワークです。

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